インタビュー
公開日2018年9月3日
更新日2018年9月11日

小学校音楽におけるプログラミング教育

プログラミング教育で実現される、誰もが身近な問題をプログラミングで解決する社会

文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官
志民 一成
したみ かずなり

小学校音楽におけるプログラミング教育をお聞きしました。

Q1. 音楽科においてプログラミング教育はどのように扱われるのでしょうか?

 音楽科におけるプログラミング体験については、学習指導要領に示される音楽科の内容を指導する中で実施することになります。よって、音楽科の目標や内容に示されたことが達成されることを前提としながら、音楽科の学習が広がったり深まったりするように、プログラミング体験を位置付ける必要があります。

 コンピュータ等を用いて、音やフレーズのつなげ方や重ね方などを工夫する音楽づくりの活動を例にして考えてみましょう。自分たちの意図した音楽をコンピュータ上で実現するために、コンピュータ等への指示についてより適切な組合せを考えます。そして、イメージした音楽表現に近付けていくための指示の組合せを、具体的にどのように改善するかということを考える際、必然的に学習指導要領に示された〔共通事項〕の音色や強弱、反復や変化など、「音楽を形づくっている要素」やその働きに着目することになります。そこで着目した「音楽を形づくっている要素」を軸に、プログラミングを活用して音楽づくりのための試行錯誤に生かしていくなどすることが、音楽科の学習とプログラミング体験とを結び付けていくポイントになると言えるでしょう。

 こうした試行錯誤の過程で「音楽的な見方・考え方」を働かせ、よりよい音楽表現を求めて探求していくことは、音楽科において身に付けさせたい資質・能力の育成にも資するものであると考えます。

Q2.音楽科におけるプログラミング教育の実践事例について紹介いただけますか?

 様々なリズム・パターンを組み合わせて音楽をつくることを、プログラミング体験を通して学習する場面(音楽 第3学年~第6学年)

 様々なリズム・パターンの組み合わせ方について、このようにつくりたいという思いや意図をもち、様々なリズム・パターンの面白さに気付きながら、プログラミングによって試行錯誤をすることを通して、まとまりのある音楽をつくります。

【学習の位置付け】

 音楽づくりの題材において、様々なリズム・パターンを組み合わせて、まとまりのある音楽をつくるという課題を設定し、プログラミング言語又は創作用ソフト等を用いて音楽をつくった後、つくった音楽を実際に自分たちで表現し、それぞれの表現のよさを認め合うといった学習が想定されます。

 とすると、授業の展開は、問題発見・解決の過程を通すことが必要になります。すなわち、子供たちにどのようにプログラムを変更するといいのかを考えさせることが大切になるのです。

【学習活動とねらい】

 児童は、教師があらかじめ用意しておいた、例えば、「ドンドン」、「ドンドコ」、「ドドンコ」といったリズム・パターンを実際に表現し、即興的に選択したり組み合わせたりする活動を楽しんだ後に、まとまりを意識した音楽をつくることに取り組みます。その際、このような音楽を、このようにしてつくりたいという自分の考えをもち、音楽の仕組みを意識しながら、プログラミング言語又は創作用ソフト等を用いて様々なリズム・パターンの組み合わせ方を試し、更に工夫を重ねて試行錯誤し、音楽をつくっていきます。

 この過程において、つくった音楽の構造を視角的に捉え、つくった音楽を再生しモニタリングしながら、リズム・パターンの組合せの面白さに気付くとともに、音楽の仕組みを用いてつくる技能を身に付け、音楽表現を高めていきます。器楽の技能や読譜などの力に大きく左右されずに活動できるため、無理なく音楽づくりの学習に取り組むことが期待されます。

Q3. 上記の実践事例以外で、音楽科においてどのような単元でプログラミング教育が実践できそうでしょうか?

 上に示した事例は、音楽づくりの活動においてプログラミング体験を導入した例ですが、歌唱や器楽、鑑賞に関する単元においても、例えば、入力済の教材のデータを使って、強弱や速度等を変化させたり、楽器の組み合わせを試したりするなど、演奏をシミュレーションする場面等でプログラミング体験を取り入れることが考えられます。

 楽器を持ち変えて演奏したり強弱や速度を変化させたりすることが、子供の技能的な側面から見て難しい場合でも、プログラミングを活用しコンピュータ上で仮想的に試すことができます。この場合、シミュレーションしたことを生かして実際に演奏して確認し、そこで上手くいかなかったところや技能的に難しかったところを課題にして、さらに工夫したり技能を得たりしていくことが大切になります。

Q4. 一方で、 音楽科におけるプログラミング教育について、どのような授業は適切ではないとお考えでしょうか?

 最初にお話ししたように、学習指導要領に示される音楽科の内容を指導する中でプログラミング体験を実施することになりますので、プログラミング教育そのものが目的とならないよう配慮する必要があります。ですから、音楽科としての学習上の必要性や学習内容との関連がなければ、その授業は適切ではないと言えます。そうならないためには、音楽科の学びとして、子供のどんな資質・能力を育てたいのかを考えて授業を組み立てることが大切になります。指導に際しては、コンピュータ等に指示を入力するだけで満足せず、子供たちが試行錯誤を通して十分に音楽表現を練り上げることができるよう、教師が働きかけていくことなどが不可欠になるでしょう。

 また、プログラミング体験で音楽表現をつくって終わりというように、コンピュータ上だけで完結してしまい、音や音楽を通したコミュニケーションを欠いた授業は、音楽科の学習として適切ではないと言えます。実演することと相互に関連付けるなど、実際に音や音楽で友達同士や教師と関わることを大切にしながら、いかに他者と協働した学びにしていくかを考えて授業を計画することが求められます。音や音楽によるコミュニケーションを通して、子供一人一人が様々な感じ方や考え方に触れることができるようにすることが大切です。

Q5. 音楽科においてプログラミング教育を行う際、どんなプログラミング環境や教材があると望ましいのでしょうか?

 子供が様々な感覚を働かせて音楽への理解を深めたり、主体的に学習に取り組んだりすることにつながるものが望まれます。実際の音と、コンピュータの画面を通して視覚化された音楽の情報との関係を捉えることで、音や音楽への理解が深まったり、より具体的なイメージをもって音楽表現を工夫したり音楽を聴いたりすることができるようなプログラミング環境や教材が、音楽科の学習に有益だと考えます。例えば、「細かいリズムに変化している」とか、「ここは反復になっている」といったように、視覚的に「音楽を形づくっている要素」を捉えられるようになったり、自分がコンピュータ等に入力したものを再生して音で聴いて確かめることができたりすると、「音楽を形づくっている要素」とその働きについて、より理解を深めることにつながります。

 また表現活動において、子供の音楽的な技能を支援するプログラミング環境や教材があれば、これまでは技能的な制約などで子供たちが十分に試行錯誤できなかったケースにおいても、それらの制約を越えた工夫が生まれることが期待できます。例えば、様々な楽器を演奏する技能を十分に身に付けていなくても、コンピュータ上で音色を変えたりすることなどができれば、どのような音の組み合わせがふさわしいかを試すことが容易になります。その試行錯誤の結果を実際の演奏に生かすようにすることで、自分の思いや意図に合った表現をするための演奏の技能について、より必要感をもって習得することにもつながるのではないかと思います。

Q6. 最後に、プログラミング教育にどの様な期待をお持ちでしょうか?

 音楽科の表現活動では知識や技能を得たり生かしたりしながら、試行錯誤して工夫していくことが大切です。試行錯誤する中で思いや意図をもったり、それを更新したり、さらに新たな発想を得たりする過程に意味があります。プログラミングの体験においても試行錯誤は重要ですが、意図が先にあり、コンピュータにその意図した処理をより的確に指示するための試行錯誤とは、性格が多少異なります。

 プログラミング教育の初期段階にも「ティンカリング」:いじくりまわす中で発想を得ていくという、創造的思考を引き出すための活動がありますが、音楽の表現活動ではその要素がとても大切だと言えます(学習指導要領に示されている(3)音楽づくりの(ア)「即興的に表現すること」と特に共通性が高いと思われます)。コンピュータ等を用いることによって、器楽の技能や読譜などの力に大きく左右されずに活動でき、音楽表現を工夫する際の試行錯誤がより容易にできるようになるという効果が考えられます。また、プログラミング的思考と学習指導要領に示された〔共通事項〕を結び付けることで、音楽表現において何をどう工夫していくかという具体的な意図を見出すことにもつながる可能性があります。

 このように試行錯誤をより活性化し、思考、判断し、表現するなどといった音楽科の学習の充実に、プログラミング教育が望ましい形で生かされることを期待しています。

志民 一成
したみ かずなり

東京藝術大学音楽学部(声楽科)卒業。同大学大学院修士課程(音楽教育専攻)修了。これまでに中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会幼児教育部会の委員等も務める。東京成徳大学専任講師、静岡大学学術院教育学領域教授等を経て、現在、国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官(兼任)。